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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)949号 判決 1978年10月23日

原告

山内徹

ほか二名

被告

福井崇人

主文

一  被告は原告山内徹に対し、金二一五万五、五八四円およびこれに対する昭和五二年三月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告山内亮に対し、金三四万二、三四五円およびうち金二二万円に対する昭和五三年三月九日から、うち金一二万二、三四五円に対する昭和五三年三月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告山内徹および同山内亮のその余の請求ならびに原告山内保子の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告山内徹と被告との間に生じた分はこれを九分し、その四を被告の、その余を同原告の、原告山内亮と被告との間に生じた分はこれを九分し、その二を被告の、その余を同原告の負担とし、原告山内保子と被告との間に生じた分はこれを全部同原告の負担とする。

五  この判決の第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「(一) 被告は原告山内徹に対し金四八七万円およびうち金四四七万円に対する昭和五二年三月九日から、うち金四〇万円に対する昭和五三年三月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(二) 被告は原告山内亮に対し金一五四万三、五六四円およびうち金三〇万円に対する昭和五二年三月九日から、うち金一二四万三、五六四円に対する昭和五三年三月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(三) 被告は原告山内保子に対し金二五万円およびこれに対する昭和五二年三月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(四) 訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

「(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

(一)  事故の発生

昭和五一年九月一一日午後一時一〇分ころ東大阪市吉田八丁目八番二号先交差点南側の横断歩道上において、原告山内徹(昭和三八年一月七日生、当時中学二年生)が自転車(以下原告自転車という。)に乗つて東から西に向かつて横断進行中、南から北に向かつて進行中の被告運転の原動機付自転車(東大阪市か七五七三号、以下被告車という。)が原告自転車に衝突し同原告は約五メートル北方に跳ね飛ばされて路上に転倒した。

(二)  被告の責任

被告は右事故当時、被告車を所有し、同車を、自己のために運行の用に供していた者であるとともに、被告は右前方の注視が不十分であつたため原告自転車の発見が遅れたのみならず、交差点に進入するに際して、なんら減速せずに約五〇キロメートル毎時(同道路は公安委員会により最高速度が三〇キロメートル毎時に制限されているとともに、原動機付自転車の法定最高速度も三〇キロメートル毎時。)の高速のまま交差点を進入、通過しようとしたものであり、他方原告徹は南北に通ずる道路を南進して来て横断歩道東端付近で右折し、同歩道上を直進して北行車線上まで進出して来ていたものである。したがつて被告は前方注視を厳にしていちはやく原告自転車を早期に発見し、横断歩道の手前で徐行または一旦停車して、同自転車の通過を待つて自車を進行させるべき注意義務を怠つて、その一方的過失により右事故を発生させたものである。

(三)  損害

1 原告徹の受傷左足関節開放性脱臼、下腿内顆および腓骨開放性骨折、左第一趾挫創、左手打撲挫傷、頭部打撲挫傷等

2 治療経過

入院

昭和五一年九月一一日から同年一二月三〇日まで同五二年三月二四日から同年四月四日まで喜馬病院に(合計一二三日)

通院

昭和五二年一月二日から現在まで同病院に(同五三年四月までの実治療日数八六日)

ほかに、昭和五二年六月二一日から二三日まで三日間井上接骨院でマツサージ治療。

3 後遺症

左足が約一センチメートル短縮、内外顆部周径が右足二七・〇センチメートルに対し、左足約二四・五センチメートル、足関節につき背屈が右足二〇度に対し左足零度、底屈が右足四五度に対し、左足三〇度、足部の外がえしは右足二〇度に対し左足零度、内がえしは右足三〇度に対し、左足二〇度、外転は右足一五度に対し左足五度、内転は右足二〇度に対し左足一〇度。現在でも、寒いときとか、天候の変るときは左下腿、同足関節が痛み、また少し継続して歩くとか軽い運動をしたあと疼痛、腫脹が同部に起る。歩くときやや内股で左足を引きずる姿勢になり、普通に走ることはできず、学校でも他の生徒と一諸に体操や運動はできない。(自賠法施行令別表後遺障害別等級表第一三級該当)

4 原告らの身分関係 原告山内亮および同山内保子は原告徹の父母である。

5 損害額

(1) 原告徹の分

イ 将来の逸失利益 二三〇万円

前記の同原告の後遺症の部位、程度に照らすと同原告は労働能力の九%を終生喪失し、それに副う減収があると推定され、稼働期間を一八歳から六七歳までとみて、月収額を昭和五一年の賃金センサスにより九万八、〇〇〇円とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人の将来の逸失利益の現価は二三二万五、四〇〇円となるが、うち二三二万円を請求する。

算式 九八、〇〇〇×一二×〇・〇九×二一・九七一

ロ 慰藉料 二五五万円

本件事故の態様、同原告の受傷、治療経過、後遺症の部位程度、同人は中学二年の第二、三学期という高校進学にとつて重要な時期に大半欠席したことその他諸般の事情をしん酌すると同人が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

ハ 原告自動車の破損 二万円

合計 四八七万円

(2) 原告亮の分

イ 原告徹の治療費等 一八五万二、七七五円

(イ) 喜馬病院関係分 一八四万九、七七五円

内訳

a 健康保険(日興証券健康保険組合)の本人負担分(同病院に直接支払)四一万二、五八五円(ただし、昭和五二年一二月三一日までの分)

b 差額ベツト代(一回目入院のときの個室料)五五万五、〇〇〇円

c 同健康保険組合からの被告への求償分八八万一、一九〇円(ただし、同五二年九月三〇日までの分。うち二〇万三、九〇九円は原告亮が立替支払)

d 文書料 一、〇〇〇円

(ロ) 井上接骨院関係分 三、〇〇〇円

ロ 入院雑費その他諸経費 四一万七、六九〇円

(イ) 職業付添婦に対する報酬 一万二、〇八〇円

(ロ) 通院交通費 六万五、八二〇円

(ハ) 医師、看護婦、職業付添婦に対する謝礼 六万三、三九〇円

(ニ) 入院雑費 一二万四、〇〇〇円

入院一日当り一、〇〇〇円の割合による一二四日分

(ホ) 通院、自宅療養中の雑費 一五万二、四〇〇円

一日当り平均三〇〇円の割合による三八一日分

ハ 慰藉料 二五万円

原告亮は原告徹の入院中毎日のように見舞つていたが、子供の不自由な痛々しい姿、勉強が遅れると焦せる様子を見るにつけ、その将来を思うにつけ受けた心痛は多大であるので、原告亮固有の精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

ニ 弁護士費用 六〇万円

他の原告らの分も含めて原告亮が負担。

合計 三一二万〇、四六五円

(3) 原告保子の分

イ 慰藉料 二五万円

同原告は昭和五一年四月から薬種商を始めていたが、原告徹が入院中は毎日午前中は病院に出かけ、慣れない商売にも専念できず、その心痛は大であつたので、原告保子の精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

(四)  損害の填補

原告亮は前記(三)の5の(2)の損害のうち、イの(イ)のa中二九万三、六二〇円、bの全額五五万五、〇〇〇円、dの全額一、〇〇〇円、ロの(ロ)中五万円小計八九万九、六二〇円を被告の父福井満から支払を受け、また同人は日興証券健康保険組合に対しイの(イ)のc中六七万七、二八一円をその求償に応じて支払つたので、同人の支払額は一五七万六、九〇一円となる。

(五)  よつて、いずれも被告に対し原告徹は損害額金四八七万円およびうち金四四七万円に対する訴状送達日の翌日である昭和五二年三月九日から、うち金四〇万円に対する請求の趣旨・原因訂正等申立書が被告に送達された日の翌日である昭和五三年三月三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告亮は残損害額金一五四万三、五六四円およびうち金三〇万円に対する前同様の昭和五二年三月九日から、うち金一二四万三、五六四円に対する前同様の昭和五三年三月三日から完済まで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告保子は損害額金二五万円およびこれに対する前同様の昭和五二年三月九日から完済まで同法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

請求原因(一)のうち、本件事故現場が横断歩道上であること、原告徹が横断歩道上を東から西に向かつて横断進行していたことは否認するが、その余の事実は認める。同(二)のうち、被告が本件事故当時被告車を所有し、同車を自己のために運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)の1は不知、2のうち昭和五一年九月一一日から同年一二月三〇日までの入院期間は認めるが、その余は不知、3は不知、その後遺症の程度が原告ら主張の等級表第一三級該当であることは否認、4は不知、5の(1)は否認、(2)、(3)は不知。同(四)は認める。同(五)は争う。

三  被告の抗弁

(一)  原告は南北道路を南進して来て、南行車線の南側端からいきなり内回りに、左前方の注視もなさず、猛スピードで交差点に進入して右折しようとしていたものであり、同道路の中央には原告徹の背丈大の雑草が生い茂つた緑地帯があつて交差点を挾んで南側の北行車線と北側の南行車線との相互の見通しは悪い。被告は約三五キロメートル毎時の速度で北行車線上を北進していたものであるが、原告が交差点に進入した地点では、既に被告車の制動距離内にあり急制動の措置を採つても衝突は回避できなかつたものである。したがつて、本件事故は同原告の一方的過失に基因して発生したものであり、かつ、被告車には構造上の欠陥も機能の障害もないので自賠法三条但書の規定により被告は原告らに対する損害賠償義務はない。

(二)  仮に右主張が理由がないとしても、原告徹にも右事故発生に寄与した重大な過失があるので応分の過失相殺がなされるべきである。

(三)  被告の父満は原告らが自認しているもののほかに、原告徹が入院中付添つた職業付添婦に対しその報酬等として七二万五、一〇〇円を支払つた。

四  右抗弁に対する原告らの答弁

前記の被告の抗弁(一)、(二)は否認、(三)は不知

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)のうち、本件事故現場が交差点南側の横断歩道上であること、原告徹が同歩道上を東から西に向かつて進行していたことは被告の否認するところであるが、その余の事実は当事者間に争いがない。しかし、前記の点に争いがあるのみならず、被告は請求原因(二)のうち、本件事故当時被告車を所有し、同車を自己のために運行の用に供していたことは自白するが、自己に同車運転上の過失があつたことを争い、自賠法三条但書の免責事由を主張するので以下、まず、右事故発生の状況について検討する。

(一)  前記の当事者間に争いがない事実に、成立に争いがない甲第四号証、原告山内徹(一部)および被告各本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができ、同原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。

1  本件事故現場は幅員約二一・四メートル(うち東側の南行車線の車道幅員約五・八メートル、中央の緑地帯部分の幅員約七・三メートル、用水路の幅員約二・七メートル、西側の北行車線の車道幅員約五・六メートル。なお北行車道の西側脇に幅約〇・四メートルの側溝が設置されている。)の南北に通ずる道路と幅員約五・〇メートルの東西に通じている道路とが交差している信号機による交通整理の行われていない交差点で、同交差点で南北道路中央の緑地帯は途切れており、また用水路は暗渠になつていること。同道路の交差点北側の南行車線部分と南側北行車線部分との相互の見通しは道路中央の緑地帯に高さ約一メートルの雑草が生い茂つているため悪いこと。同現場付近は市街地で、公安委員会が最高速度を三〇キロメートル毎時に制限しているが、事故当時車両の通行量は閑散としていたこと。

2  原告自転車と被告車の衝突場所は原告ら主張の横断歩道上ではなく、交差点の北行車線のほぼ中央あたりであること。

3  被告は南北道路の北行車線の中央を約四〇キロメートル毎時の速度で南から北に向かつて進行していたが、交差点手前約三〇メートル付近で交差点を過ぎた同車線上の用水路脇あたりに親子連れが歩行しているのを右前方約四八メートルに発見し、約三五キロメートル毎時に減速したが、その後は東西道路の西側からの進入車両があるかないかに気を奪われて左前方のみに注意を払つて同車線中央を進行していたところ、約二六・七メートル進行し交差点南側の横断歩道上に至つたところ、右前方約五・八メートルに原告自転車が既に同車線上に約一メートル進出して来て西進しているのに気付き、あわてて急制動の措置を採つたが間に合わず、約五・四メートル前進し、被告車の前部がそのまま約二メートル前進して来た原告自転車の左側部に衝突し、原告徹はその衝撃で自転車諸共跳ね飛ばされて約七・六メートル北方の側溝東脇に転倒したこと。

4  他方同原告は南北道路の南行車線上を原告自転車(ミニサイクル)に乗つて南進して来て、交差点を右折して東西道路の西側部分に入ろうとしていたが、前記横断歩道上までは行かずに、方向変換後交差点の中央あたりを東から西に向かつて直進していたが、少くとも衝突直前には被告車の進行を衝突時まで気付いていないこと。

5  少くとも、原告自転車が交差点に進入後は、その中央付近に進出したときは、北行車線上との相互の見通しは同交差点南側手前のかなりの距離からきくこと。

(二)  右認定の事実からすると、本件事故は被告が叙上のような見通しの悪い交差点においては右折車等の進行に備えて、右前方の注視を厳にして早期発見に勉め、場合によつては交差点の手前で徐行または一旦停車して衝突事故の発生を回避すべき注意義務があるのに、漫然とこれを怠り原告自転車の発見が遅れた過失により右事故を発生させたものといえるが、同原告にも北行車線上の注視を怠り、方向変換後同車線上を横断直進しようとした不注意があり、右過失も右事故発生の原因として寄与していることも否めないので、双方の過失が競合して右事故が発生したものといえ、その過失割合は被告の過失を六とすれば、同原告のそれは四とみるのが相当である。

(三)  そうだとすれば、被告の過失相殺の主張は理由があるが、その余の判断をするまでもなく被告の自賠法三条但書の免責事由の主張は理由がなく、同被告は同条本文により同原告の受傷に基づく損害を、また、民法七〇九条により原告自転車の破損による損害(ただし、この点については後記説示のとおり損害の立証が肯認できない。)を賠償すべき債務があるというべきである。

二  そこで右事故により原告らが被つた損害について検討する。

(一)  原告山内亮本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二、三号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる同第七号証、第八号証の三、四、第九号証の三、第一〇、一一号証の三、四、第一二号証の三ないし五、原告三名本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、請求原因(三)の1ないし4の事実を認めることができ、右認定に反する適当な証拠はない。そして原告徹の後遺症は自賠法施行令別表後遺障害別等級表第一三級相当のものであり、同症状は本件口頭弁論終結日である昭和五三年八月一七日現在ではほぼ固定したものと認められる。

(二)  右事実を前提として損害額の明細についてみてみる。

1  原告徹の損害分

(1) 将来の逸失利益

原告徹本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、同原告は本件事故後中学校を卒業し高等学校に進学したことが認められるので、同学校を卒業した一八歳から六七歳まで稼働するものと推定されるが、前認定の後遺症の部位、程度に照らすとその間労働能力の九%を喪失し、それに副う減収があると推定され、昭和五一年賃金センサス、企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計一八~一九歳の平均年収は一二一万四、七〇〇円であるので、右数額を基礎とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同原告の将来の逸失利益の後遺症固定時である昭和五三年八月一七日現在の現価は二四六万三、〇九一円となり、同原告は同額の損害を被つたといえる。

算式 一、二一四、七〇〇×〇・〇九×(二五・二六一四-二・七三一〇)

(2) 慰藉料

本件事故の態様、同原告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情をしん酌すると同原告が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は二〇〇万円が相当であると認められる。

(3) 原告自転車の破損

標記の損害については、前掲甲第四号証に「前部フオークが少し曲り左側面フレームに衝突痕があつた。」旨の記載があり、原告自転車の写真四葉が添付されているが、右証拠だけからは右自転車の破損の程度が明確でなく、使用不能になつたのか、または修理すれば使用できたのか、もしその場合の修理費の金額はいくらかなのかが証拠上分明でないうえ、原告徹本人尋問の結果によれば右自転車は同原告の所有のものではなく、同人の妹が両親から買つて貰つたものであることが認められることからすると仮に損害があるとしても、それは同原告が被つた損害であるとはいえない。したがつて、結局、損害についての立証が十分でないことに帰するので標記損害はこれを肯認することができない。

以上の説示により同原告の損害額は四四六万三、〇九一円となる。

2  原告亮の損害分

(1) 原告山内亮本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、同原告は原告徹の治療費その他以下説示の各費用を負担または支払したことが認められるので、その各費用は原告亮の損害とみても差支えないので、その明細についてみてみる。

イ 原告徹の治療費等

(イ) 原告亮本人尋問の結果によれば、原告徹の受傷の喜馬病院での治療費は被告の父福井満の要望を容れて原告亮の勤務先を取扱う日興証券健康保険組合の同保険扱いとしたものであることが認められる。そして、右尋問の結果、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第六号証の七一ないし七八によればその治療費のうち本人負担部分(三割)に請求原因(三)5(2)イ(イ)aのとおり四一万二、五八五円を要したことが認められ、右は相当性のある損害といえる。(なお、昭和五二年三月二四日から同年四月四日までの再度の入院のときの差額ベツド代(個室料)三万六、〇〇〇円もその一日当りの費用が三、〇〇〇円であつてさ程ぜい沢なものではなく、原告徹は抜釘のため入院したことその他の事情を勘案すると必要性がないとはいえないので、相当なものと認められる。)次に、bの差額ベツド代(昭和五一年九月一一日から同年一二月三〇日までの入院にかかる五五万五、〇〇〇円)についても、同原告の左足の受傷は手術でギブス固定を要するものであり、また同原告の年齢等を加味するとその必要性がないと断言できないうえ、その一日当り五、〇〇〇円の数額も必ずしも高額とはいえず、原告亮本人尋問の結果によれば、被告の父満も、早く個室から出るよう要求したことはあつたが、結局は異議をとどめずに五五万五、〇〇〇円の全額を負担、支弁したことが認められるので、相当な損害と認めて差支えない。

(ロ) しかし、cの同組合からの被告への求償分八八万一、一九〇円については、原告亮本人尋問の結果、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲八号証の一ないし四、第九号証の一ないし三、第一〇、一一号証の各一ないし四、第一二号証の一ないし五によれば、同病院での治療費のうち同組合負担分(七割)に八八万一、一九〇円を要したことが認められ、同組合が同病院に同額を支払後、同組合からの健康保健法六七条一項の求償に応じて福井満は同組合に対し六七万七、二八一円を支払つた(同額の支払の点については当事者間に争いがない。)が、その余の金額については被告は支払をしなかつたので、原告亮が第三者として昭和五二年一月一日から同年九月三〇日までの分二〇万三、九〇九円を支払つたことが認められる。けれども、同組合負担の治療費の求償については、本来原告徹は被告に対し、その被害総額につき前記一の(二)に設示の同原告および被告双方の過失割合等をしん酌して過失相殺し、その六〇%の金額の損害賠償債権しか有していないから、同組合の被告に対する求償額は八八万一、一九〇円の六〇%の五二万八、七一四円であり、被告または福井満は昭和五一年九月一一日から同年一二月三一日までの分については被告の債務額である四〇万六、三六九円を支払えば済み、二七万〇、九一二円は過払となつているが、同額の過払は同組合に対するものであつて、同原告に対するものでないので、同原告および原告亮の被つた他の損害費目への弁済として流用することは相当でない。また、原告亮が被告の同組合に対する求償債務について、その弁済をすることについて法律上の利害関係を有しているかどうかは疑問の余地はあるが、いずれにしても被告がその弁済に反対する意思を有していたことについて被告の主張、立証がない以上、同原告の同組合に対する弁済は有効な弁済といえるが、その金額の限度は一二万二、三四五円にとどめるべきで、それを超える弁済部分は非債弁済であり、被告に求償しえないので、同原告の被告に求償を請求しうる金額は一二万二、三四五円であり、かつ、前掲各証拠によれば、その弁済日は昭和五二年五月一〇日以後同年一一月三〇日までであるので、遅延損害金発生の起算日は同原告主張の請求の趣旨・原因訂正等申立書が被告に送達された日の翌日である昭和五三年三月三日とする。

(ハ) 弁論の全趣旨によれば、dの文書料一、〇〇〇円を要したことが認められる。

(ニ) 原告亮本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証によれば、井上接骨院の治療費に三、〇〇〇円を要したことが認められる。

ロ 入院雑費その他の諸経費

(イ) 職業付添婦に対する報酬

弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第六号証の六八および同原告本人尋問の結果によれば原告徹の入院期間のうち昭和五二年四月三、四日の二日分の標記の報酬一万二、〇八〇円を原告亮が支払つたことが認められる。

(ロ) 通院交通費

原告徹の受傷、治療経過からみて、同原告の第一回目の入院の喜馬病院からの退院時、昭和五二年一月二日から同年三月二三日までの同病院の通院の往復、第二回目の入院の入・退院時にはタクシー利用の必要性があるといえ、前掲甲第五号証によればそれに要した料金は小計三万四、九九〇円であり、その後の通院はバスの利用で十分であると認められ、前掲証拠によればその通院一回当りの往復運賃は一二〇円であると認められるので、これに昭和五二年四月から同五三年四月までの通院回数六三回を乗じると小計七、五六〇円となり、その合計四万二、五五〇円が相当な損害といえる。

(ハ) 医師、看護婦、職業付添婦に対する謝礼標記の損害は本件事故と相当因果関係があるといえないので、その余の判断をするまでもなく、その請求は理由がない。

(ニ) 入院雑費

経験則上、原告徹の入院期間中一日当り七〇〇円の雑費を要したことが認められるので、その一二三日分は八万六、一〇〇円となる。

(ホ) 通院・自宅療養中の雑費

標記の損害は本件事故と相当因果関係があるといえないので、その余の判断をするまでもなく、その請求は理由がない。

(ヘ) 職業付添婦に対する報酬

被告本人尋問の結果により成立を認めうる乙第一三ないし二四号証および右尋問の結果によれば、原告徹の第一回目の入院および第二回目の入院中昭和五二年三月二四日から同年四月二日まで同原告の付添看護した職業付添婦に対する報酬として七二万五、一〇〇円を要し、同費用は相当な損害と認められる。

以上合計すると原告亮の損害は前記イ(ロ)を除き一八三万七、四一五円、イ(ロ)の求償債権額一二万二、三四五円となる。

(2) 慰藉料

前認定の原告徹の病状、後遺症の部位、程度、身分関係その他の諸事情に照らすと原告亮がかなりの心痛を被つたことは認められるが、その精神苦痛は被害者である子が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛にまでいまだ至つていないので、同原告は原告徹の受傷に伴う自己の権利としての慰藉料を被告に対して請求できないので、その請求は失当というほかはない。

3  原告保子の損害分

(1) 慰藉料

原告保子の慰藉料についても、前記2の(2)と同様の理由でこれを肯認することができないのでその請求は失当である。(なお、同原告経営の薬種商の営業成績が落ちた損害はいわば本件事故の間接損害であるので、相当因果関係を首肯するのに躊躇せざるをえないので、右事情をしん酌して同原告の慰藉料を肯認するのは相当でないと思料する。)

三  以上に肯認した損害、すなわち原告徹分四四六万三、〇九一円、原告亮の前記二(二)2(1)イ(ロ)を除く一八三万七、四一五円につき前記一の(二)に説示の原告徹と被告との過失割合等をしん酌し過失相殺し、その四〇%を減じた原告徹につき二六七万七、八五五円、原告亮につき一一〇万二、四四九円が同原告らの被告に対する損害賠償債権であるといえるが、請求原因(四)のとおり被告の父福井満が原告亮の損害につき八九万九、六二〇円を同原告に支払つたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第一三ないし二四号証および被告本人尋問の結果によれば満は職業付添婦に対しその報酬七二万五、一〇〇円を支払つたことが認められ、右は同原告に対する支払と同視されるので、その弁済額の合計は一六二万四、七二〇円となり、これにより原告亮の損害賠償債権は全額弁済により消滅し、その過払分五二万二、二七一円は、元来原告徹の受傷による被告に対する損害賠償債権は訴訟物としては一個でその治療費その他の諸費用をたとえ父母などの近親者が負担、支出したとしてもそれを含めて同原告の損害として構成しても差支えないものであり、本訴では同原告の父原告亮が治療費その他の諸費用の負担者である旨の原告らの主張に従つて叙上のとおりその各債権額を算定したまでであるから、これを原告徹の債権の弁済として充当すると同原告の残債権額は二一五万五、五八四円となり、弁護士費用は本件事案の内容、訴訟経過、難易度、前記認容額等を勘案して二二万円が相当であるが、右同額は原告らの主張に従つて同費用の負担者である原告亮の損害とみなして差支えない。(なお、福井満の日興証券健康保険組合に対する支払分六七万七、二八一円が原告らの債権の弁済とみなされず、控除の対象とならないことは前記二(二)2(1)イ(ロ)に説示のとおりである。)

そして、原告亮は被告に対しそのほかに前記二(二)2(1)イ(ロ)に認定の第三者として前記組合に対し弁済した金員につき求償債権一二万円二、三四五円を有する。なお、原告亮、同保子の損害賠償に伴う同原告ら分としての弁護士費用は前説示のとおり同原告らの右各債権は消滅しまたは発生しておらず、また原告亮の前記求償債権の請求につき弁護士費用の必要を認めることも事案の性質上相当でないので、これらの弁護士費用の請求は理由がない。

四  よつて、被告は(一)原告徹に対し残債務額金二一五万五、五八四円およびこれに対する訴状送達日の翌日である昭和五二年三月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、(二)原告亮に対し前記弁護士費用および求償債権合計金三四万二、三四五円およびうち同費用金二二万円に対する前同様の同年三月九日から、うち求償債権金一二万二、三四五円に対する請求の趣旨・原因訂正等申立書送達日の翌日である昭和五三年三月三日から完済まで同法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があるので、同原告らの被告に対する請求を右の限度で正当として認容し、同原告らのその余の請求および原告保子の請求は全部理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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